小林: 会計学を、教科書で学ぶことと実際に財務諸表を見て学ぶことの違いは何ですか?
飯野: 例えば簿記の検定で言うと、検定で出題される財務諸表と企業が実際に作っている財務諸表の内容は同じですが、形式が違います。簿記で出てこない勘定科目※であっても企業によって出てくる勘定科目があります。なので、本来であれば簿記や会計学を学んでいれば、企業が作っている財務諸表を見るときに、その会社の状況を判断することができます。しかし、たいていの人は初見で「何がどこに書いてあるのか分からない」という状況に陥ります。これが教科書で学ぶことと実際の資料で学ぶことの違いです。
※勘定科目 会社の取引による資産・負債・資本の増減、および費用・収益の発生について、その性質をわかりやすく記録するために必要な分類項目の総称 具体的な取り組み小林: ゼミナールではどのようなことをしていますか?
飯野: 私のゼミナールの目的は、企業が実際に作成して公表している財務諸表を見て、その企業の経営が上手く行っているか、より深く見ていくとどういったところにどのような経営上の問題点があるのかについて分析して、正しく捉える能力を身に付けることです。そのためには、基本的な事柄が分からないと実際の財務諸表を見ても分かりません。なので、まず2年生では基本的な会計学の知識や考え方を学び、そのうえで3年生では2年生の時に得た知識を活用し、実際の企業の財務諸表を見ていきます。
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作業をしている様子 |
小林: 学生に身に付けて欲しいことは何ですか?
飯野: 会計学だけではないですが、コツコツ努力を重ねれば、ちゃんと成果が出ること。これを体験して欲しいです。それが体験できれば、一つの成功体験が出来ます。「今やっていることがすぐに成果として表れなくても続けていけば、近い将来成果として現れてくる」ということを、会計学を素材として体験してもらいたいです。
ゼミで行う意味小林: 講義ではなく、ゼミナールで行う意味は何ですか?
飯野: 授業だと一人ひとりまで目が届きません。以前、他大学で50人以上の受講生がいる財務諸表分析の授業をしましたが、学生が個々に財務諸表を読み取る作業をした時には、人数が多いので、一人ひとりの作業を確認することが難しく、作業をさせっぱなしになってしまったことがありました。各々が作業をして最終的にはレポートを提出してもらいますが、コメントすらできない状況です。その点、ゼミナールだと人数が18人と少ないので一人ひとりを見ることが出来ます。 私の研究会では一人ひとり別の企業について分析してもらっています。それを中間発表という形で発表してもらうことで、それぞれの考察について私も確認やコメントが出来ています。ゼミ生は他のゼミ生の発表や講評を聞いて、自分が分析をした企業だけではなく、ゼミ生全員分の企業の分析を知ることが出来るメリットがあります。一人で分析していると他の企業と比較が出来ないので、自分が分析した企業が普通だと感じてしまいますが、比較をすることで自分が分析した企業がどんな経営状態か明確に知ることが出来ます。
大変なこと小林: 教える上で苦労していることは何ですか?
飯野: 教えるというよりも準備に苦労します。ゼミ生それぞれのレポートを見ますが、すべて違う企業(のレポート)なので頭の切り替えが大変です。ゼミ生は自分の分析する企業だけを見ていますが、私は事業内容の異なる企業の分析レポートを見ておかなければいけないので、準備が大変です。 でも、教えること自体はそれほど大変ではありません。分析をしている企業にはセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンのような同業他社がいくつかの業界であります。そのため、比べることが出来、様々な展開の仕方が出来ます。なので、教えるということは大変ではありませんが、準備の大変さがあります。
読んでくれている皆さんへ小林: 本学の学生や高校生に一言お願いします。
飯野: 大学は学問を行う場です。学問は新たな発見の喜びと、それに伴う楽しさと面白さに 導いてくれます。何か一つでも興味のあることを見つけることが出来れば、それについて深く学び、学問の楽しさと面白さに出会うことができます。何でもよいので、自分にとって興味のあることを見つけて下さい。そうすれば充実した楽しい大学生活を送ることができるでしょう。
日本の会計にまつわる雑学小林: 財務諸表の形式以外にも教科書と資料の違いはありますか?
飯野: 財務諸表には大きく分けて個別財務諸表*1と連結財務諸表*2があります。 会計学の授業や簿記3級、2級で学ぶのは、前者の個別務諸表のみになります。しかし、企業は、個別財務諸表だけでなく、連結財務諸表も作成しています。しかも連結財務諸表に企業の経営能力がよく反映されているのです。なので、連結財務諸表を見て経営能力を判断する力が必要になります。 また、連結財務諸表については、日本、アメリカ、IFRS(国際会計基準)の3つの会計基準が採用されています。企業は、この3つのうちからどの会計基準を採用しても良いことになっています。すると、日本だけではなく、アメリカの会計基準や国際会計基準で作っている財務諸表も扱えるようになる必要があるのです。これの一番難しい点は連結財務諸表で使われているルールがそれぞれ違うので、分かっていたことでも分からなくなるという混乱が起こりえるということです。 このように実際に企業で作っている財務諸表は教科書に出てくる通りではありません。内容は同じでも見かけが教科書通りではなかったり、出てくる勘定科目がなかったりします。 教科書に出てくる財務諸表や勘定科目はあくまでも一般的な商業や製造業を対象にして、解説をしています。業種が異なれば使われる勘定科目も違うので、すべての企業が該当するわけではありません。それが、実際の財務諸表を見ると分かります。こういう部分も面白いんですよね。
*1 個別財務諸表 法律によって、独立した会社ごとの経営成績などを開示することを目的に作成されるもので、すべての株式会社が作成しなければならないもの *2 連結財務諸表 親会社と子会社など、複数の企業によって構成されている企業集団の財務諸表のことで、金融商品取引法が適用される上場企業などでその作成が義務づけられている 今回お話を聞いた先生文責:学生広報部 小林 奈菜(嘉悦大学 経営経済学部2年)
学生広報部の記事一覧はこちら https://www.kaetsu.ac.jp/kaetsu-info/student-pr/