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大学院便り 第43回

大学院便り 第43回 2016年4月15日
「雇用の経済学」

  高橋 洋一
  嘉悦大学大学院教授 

 

 yoichi takahashi

アベノミクスにはいろいろな批判がある。

たしかに、2014年4月からの消費増税は大きなミスであるが、十分な金融政策をやってきたので、少なくとも雇用は悪くなっていない。

 

ところが、民主党は雇用重視の党であるにもかかわらず、この金融政策の重要性をきちんと理解できていない。民主党のある議員の意見を題材にして、改めて考えてみよう。この意見を選んだことについて、他意はなく、たまたまこの意見が民主党内の標準的な考え方を示しているからだ。

 

「民主党政権3年間(2009年9月~2012年12月)は1.4%減、安倍政権3年間(2012年12月~2015年9月)は3.7%減と、減少幅は2倍以上。生活は苦しくなりました」

 

このような実質賃金に関する見方は識者も同じように言うことがある。以下の述べるように間違っているが、雇用の経済学に対する理解をはかる試験紙として経済学のテキストにものせたいくらいの実例だ。

 

まず、雇用の経済学を復習するために、下図を見ておこう。

 

16-04-15_daigakuindayori

 

労働力は、実質賃金に対して柔軟に対応しにくいので、ある実質賃金の状況の時、労働需要と労働供給に乖離がでて、労働需要(図中ではAの点)より労働供給が上回っているので、その差は失業になってしまう。

 

このとき、実質賃金をどのように変化させるかが、雇用政策のポイントになる。民主党政権時代は、安倍政権に比べて、実質賃金は低下しなかった。安倍政権と相対的にみれば、民主党政権時代のほうが高かった。これを図の中で示せば、AからBの点に向かったといえる。

 

賃金を上げるために、最低賃金を上げるのはいい政策ではない。実際、民主党政権時代は、まず最低賃金の引き上げを図ったたが、かえって失業は増える。

 

正しい政策は、まず、実質賃金を下げるのだ。実際に名目賃金は労使間の交渉によって決まるので、実質賃金を下げるというのは、物価を引き上げるわけだ。ここに、金融政策が関係してくる。他のマクロ経済政策、例えば財政政策では、なかなか物価に影響を与えることはできない。ところが、金融政策は物価に影響を与えられる。このため、金融政策で実質賃金を低下させられる。すると、就業者数を増加させられる。これが図の中で、AからCへのシフトである。その時には、失業がなくなる。

 

その後は、失業が少ないまま、経済を拡大させる。そうなると、今度は実質賃金も上昇に転じてくる。図の中では、CからDへの移行だ。その場合、同時に就業者数も増加する。

 

以上のメカニズムを頭に入れて、現実の経済をみよう。

 

まず、実質賃金は次の通りである。

 

16-04-15-01_daigakuindayori

 

 

実質賃金が安倍政権のほうが下がっているといっているが、事実はそのとおりだ。しかも上に書いた雇用の経済学のとおりであって、そのために、就業者数も増加している。さらに、民主党政権では、実質賃金が良かったので、就業者数が減少している。

 

 

16-04-15-02_daigakuindayori

 

 

民主党政権時代は、雇用の経済学の図では、AからBへ移行した。安倍政権になって、BからCである。そして、安倍政権では、そろそろ失業がなくなりつつ完全雇用に近づいているので、実質賃金は下げ止まっている。これは、実質賃金の図をみればわかる。

 

この両政権の差は、金融政策である。金融緩和を行わずなかった民主党政権と金融緩和を行った安倍政権の差である。

 

金融政策がどうして雇用に効くかというと、一般物価の変動を通じて実質賃金に作用するからだ。これは、他の政策では、個別物価に影響を与えても一般物価には影響を与えられない。これは金融政策が他の政策にない特徴である。民主党は、この点の理解がまったくできておらず、就業者数を増やすべき時に、実質賃金を増加させようとしたのが、まったく経済政策の理解が不十分といわざるを得ない。

 

こうした経済学のフレームワークから、今後の実質賃金の動きも予想できる。失業率が完全雇用とみられる2.7%%まで下がったら、各業種で賃金が猛烈に上がり出すだろう。

現在の失業率は3.3%(2016年2月)。もう一段の金融緩和と財政政策の後押しがあれば、完全雇用が達成でき、賃金ががり出すはずだ。

 

 

 

 

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